子どもたちの表現を考える時、子どもたちが送ってきたであろう生活の質を考えずにはいられません。初めて園と出会い、自分達の園生活を自分なりの思いで送ろうとしている子どもたちにとって、自分を信じて生きるほど生活の経験もなければ生活の質も積み上がっていない状態で園生活が始まります。しかし、子どもたちは園の環境すべてに働きかける時間や空間を保障されることで自分は何者であるという確信を学び取ることができるのです。それは、友だちとの関係性であったり、園の動植物との関り(自然との対話)であったり、この環境を子どもたちのために守っている保育者の集団であったりを介して子どもたちの心のよりどころとして、自分の心を育てる基礎を受け取ります。そんな子どもたちの心の育ちに呼応して子どもたちの感情の育ちは徐々にではありますが自分以外のものの奥深さを学び取り、美しいものに感動したり、不思議さを追求する一人の植物学者であったり動物、昆虫学者、哲学者、芸術家と多様な自分の心のありようを発見するのです。美しいものや不思議さに驚きを感じる心の育ちはやがては伝えたい心に移行し、他者とのつながりに満足感を得ることで、自分自身を理解する手立てを獲得します。
子どもたちの表現を理解することは、その子の感情や思い、哲学や知識を肯定しながら、その子全てを理解することに他ならないのではと思います。「せんせい、あのね、」から始まる表現への理解は、その子全てを理解しようとする思いを、私たち保育者に提供してくれる素晴らしいものなのだと解して、大切に育んでいかなければならないことは明白なのではと思います。